滴る耳
A道化









誰も
さよならを言わない
誰も、何も、言わない





ジ、


ただ
重々しい青へ、空の、青へ
弾け散るように飛び立った蝉の
既にこげ始めていた脆い体の残した
最後の一滴の摩擦


わたしの夕立だった頃、
その涙で見通した秋にはっとして、
すぐに泣き止んだの、それから、
丁寧な、丁寧な、あなたがたのさよならを、
恐れるような望むような待ち方で、
(さあ、おいで、さよなら、
どうかさよならを、さよならを、あなたがた、)





(ジ、ジ、ジ、)


重々しい青、へ、空の、青へ
弾け散るように飛び立った蝉の
既に焦げ始めていた脆い体の残した最後の一滴の摩擦が
細やかな耳の輪郭を濡らし尽くしてからずっと
蝉の幻を見ることで、この耳は
細やかな輪郭を保っている





(ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、)


ねえ、この細やかな輪郭を守っているよ
千滴の蝉の幻を見ることで
この耳は、


2007.8.22.


自由詩 滴る耳 Copyright A道化 2007-08-22 04:14:29
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