無言(むげん)
太陽の獣
悲しい悲しい物語
その主人公には言葉がありません
すすり泣く事も出来ずに
その虚ろな目をただ、震わせて
溢れるものにも蓋をして
彼は紙に記すのです
何もせずとも指先に滲むインクで
赤い呟きを記すのです
震えはやはり指先にも伝わり
ただただ零れるインクに怨めしの視線を混ぜるだけ
震えはやはり虚ろな目にも伝わり
ただただ震えるものにインクを混ぜるだけ
白い紙の一点は赤く
一滴落ちる度、濃く
一滴落ちる度、深く
やがては一点を貫く
そこに向けた願いはあからさまに通過し
それがそれが悲しくて
それがそれが悔しくて
虚ろな目は虚ろなままで
虚ろな指先は確かなもので
赤い色はしかし紙の中で穴となり消える
膝をついてすすり泣く事も出来ず
ただただ血と肉と骨とで支えて
しかし指先に滲むものは
怨めしの視線よりも黒く
鮮明で
鮮明
故に黒く、赤い
続く、延々と、延々と、延々と、続く
永遠に、延々と
言葉のない主人公の
悲しい悲しい物語
終わりのない物語の
悲しい悲しい主人公の話
私はここに記すのです