許さない
悠詩

あいつの後ろを自転車で駆ける
傀儡くぐつの糸はまだ切れていない
高校生になってようやく
おさらばできると思ってたのに
ぴたりと重なる通学路
ぴたりと重なる通学時間
慢性劣性アルカリ性の
猛毒が胸を冒し続ける
後ろを走る女子学生に
そんな風が届くわけはなく


こちらに向けた
蔑みの目は
あいつにとって
ほんの些細な
日常であり
訴えられて
開き直った
あの時だって
俺が創った
マジックミラーに
気づくことなく
無意識のうちに
ぶち破っては
この心臓を
引き摺り出した
俺はまさしく
屠殺の餌食
形而上的
存在意義など
認められない


赤信号にあいつが止まる
ぴしゃりと張った傀儡くぐつの糸が
肩を手首を膝を突き刺す
なんの用事もないくせに
血だらけの足を地面に下ろし
忘れ物に気づいたふりして
路の時間を稼いでみたり
決して気づかれないように
決して気づかれないように
通り過ぎてく女子学生
からかう声は上げないでくれ


いつか俺らが大人になって
互いに互いを許せるように
なろうと決心した春の夜半
無謀なことを思ったもんだ
人を許すというおこないが
大人になった証拠というなら
俺は絶対許しはしない
青臭く弱い子供の俺を
鋼で造った傀儡くぐつの糸で
いついつまでもどこまでも
引き摺り回していってやる

傲慢だけの許しはいらない
蒙昧だけの許しはいらない
従順だけの許しはいらない
忘却だけの許しはいらない


俺は絶対許さない
影を縛り続けたあいつ
それを許すと定義させた
世界と俺を許さない


あいつの隣に自転車並べ
「こん畜生が」と笑い飛ばして
「二度とすんな」と走り去るまで
俺は絶対許さない



自由詩 許さない Copyright 悠詩 2007-08-21 00:39:22
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