bird。
クスリ。
橙色荒野に吹く風を/纏う鉄蒼色の軸/宵の時間を世界の涯へ/進む列車があるのです。
地平の橙色が揺れ墜ちる。
墜ちる百億回目の繰り返しの狭間、僕は祖父の遺した部屋の隅でアップライトのピアノの蓋を机にして、自分の過去の悪行たる落書き混じりのセヴェリーニの画集をハリハリと捲っていた。
世界の変遷を意識しパセイスムの否定をキャンパスに叩いた前衛画家の1915年が幼児のオプティミスムと溶けている、いずれも過ぎた時間軸のコンポジションを捲る。
僕は宵に橙を積算する時間を吸い込んで画から立ちのぼる擬夜を、橙色に染まる夜の前だけセヴェリーニの画から立ちのぼる響きを、待つのだ。
それは、過去に透ける「未来派」の混乱が放つ、儚い叫びなのかもしれないし、ただの気分だけかもしれないけれど。
不思議と秋の、巡る曖昧がカタンコトンと僕の位相を揺らす。
かろん、と、響く過去の脈動が、祖父の部屋で無為の刻を見る僕に宵の橙色を絡め深く深く沁みてゆくのだ。
セヴェリーニは暫く宵を語る。
「『武装列車』に乗る、記号めいた狙撃手の右手は夜のトリガーに指をかけ、撃たれるべく在る何かだけが、宵にリアルを刻んでいる。」
刻まれた記号のリアル。
それは虚構に肉薄する生存の履歴だ。
「太古の螺旋を継承する鳥の幻の激痛だけが、喪い続ける擬夜に生命を与える。」
夜の前に刻まれる四角の頂点。
刻まれ、跳ね躍る幻の慟哭。
逆光に飛ぶ秋の影が七つ。
僕は目を瞑り、宵を疾駆する幻車に乗る。
痴呆めく児戯に似た空想の痛みで構築される夜の四角へ。
擬夜の隅で喘ぐ微かな律動が漣に瞼を叩く。叩けども、未だ不可視の幻鳥の痛覚、に、密やかな凝縮を始めた夜の四角へ。
凝縮された滴に濡れた躯に沁みてゆく擬夜の幾何学が、ふつふつ、と、唇から零れる。(それ、は、幻の列車を動かす虚構機械の駆動、と、)
鳥の痛夢は閉じていて小さく、夜を埋める極微にすら満たない。(不具の遺伝子を、燃料、に)
架空の矛盾が迷走する痛覚神経の末端を捕獲していた。
静か、で、在る事を希求する躯は、在りもしない無を紡ごうとし、無、に、拡大する虚空に伸びてゆく二重螺旋の銀糸を掴もうとする。
その刹那、だ。
カタンコトン、と、僕は夜に到着する。
既に閉じられている、画集。
既に閉じていてる、擬夜。
能動受動の差違に、僕はいつでも立ち竦む。
響き残るのは、宵の、未来だ。