誤報+光彩+波止場
一般詩人-
+誤報+
夏蜜柑色の
カーブミラーに
映る
途方にくれた宵の
ちっぽけな存在感が
ちっぽけに健やかに
廃している
森の陰でぐったりと元気な蕨を折る
麦藁帽子の奥が宇宙のように暗い
夏の奥深くから
蝉の咆哮が聞こえるのだ
そうあの日
たった一匹で鳴いていた誤報が
カーブミラーの中で俺を見つめ返している
どこかでかつて聴かぬ祭り太鼓が
少なくともそこに俺はいない
ファールボールがカーブミラーに飛びかかり
破片が花火のようにはじけた
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+光彩+
ありえたかも知れない音色を聞きながら
ありえたかも知れない生活を夢想していた
もちろんそんなものは砕け散っていて
俺はバラックに据え付けの
電気コードだけで世界に紐づいていた
今からその音色で
トムとジェリーに出てくる
チーズみたいな穴を埋めるのか
窓から見た世界は
どうせバラックじゃねぇか
全体重をかけてローキック
光に浸かれ
おまえがあこがれた世界を
おまえのものにするために
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+波止場+
線路が水没したため
駅のホームは波止場になった
駅員が敬礼しあう朝の風景は変わらないのだが
やってくるのはことごとく屋形船であり
律儀にツーマンセルである
朝から赤提灯
船内は既に宴会
屋形船箱乗り
乗れや乗れや海までゆこうや
出勤する気ないだろアンタ等
海風に吹かれながら
透き通る線路を
その向こうの摩天楼を
よそごとのように眺めていた