難破船
佐野権太

あの日
あっというまに難破した僕らは
流木にもなれずに
世界中の海に散らばった

絶え間なく打ち寄せるくらやみの音色に
安心してしまいそうな
ちいさな木片

ほんの少しの誤り
いくつかのいさか
そして、たくさんのバランス
きっと誰もが真剣で
空と海の境界を見つめるまなざしは
誰もが正しかった

ゆるすこと
ゆるしあうこと
あきらめることとは、ちがう

たすき掛けの水筒が
ちゃぷん、と揺れる
忘れてきてしまった
甲板にしみ込んだ
いくつもの、かな、しみが
ひきのばされてゆく

熱い、とても熱い日
波に溶けて
ふるえながら目覚める僕らは
きっと、何度も難破する



―――なあ、あの白いマストが
   見えるか







自由詩 難破船 Copyright 佐野権太 2007-08-18 14:58:43
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