焦げ付いた影
なかがわひろか

アスファルトに焦げ付いた影を切り取って
家へ持って帰った

壁に立て掛けて
白いチョークで
目を描いた
耳を描いた
鼻を描いた

口を描いた途端
影はしゃべり出した

愚痴ばかりだった
最近太っただとか
鼻歌が耳障りだとか
アスファルトが焦げ付く臭いがたまらないとか

裁縫道具を取り出して
影の口を縫いつけた
影はもごもご言っていたけれど
さっきよりはましだ

私は切り取った影と共に
今日も沈む夏の太陽を眺める
焦げ付いた影たちは
また明日持ち主がその場所に来るのを
夜の黒に紛れてじっと待つ

影はまだもごもご言っている
私は外の蝉の声に耳を澄ませる

(「焦げ付いた影」)


自由詩 焦げ付いた影 Copyright なかがわひろか 2007-08-18 00:44:18
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