焦げ付いた影
なかがわひろか
アスファルトに焦げ付いた影を切り取って
家へ持って帰った
壁に立て掛けて
白いチョークで
目を描いた
耳を描いた
鼻を描いた
口を描いた途端
影はしゃべり出した
愚痴ばかりだった
最近太っただとか
鼻歌が耳障りだとか
アスファルトが焦げ付く臭いがたまらないとか
裁縫道具を取り出して
影の口を縫いつけた
影はもごもご言っていたけれど
さっきよりはましだ
私は切り取った影と共に
今日も沈む夏の太陽を眺める
焦げ付いた影たちは
また明日持ち主がその場所に来るのを
夜の黒に紛れてじっと待つ
影はまだもごもご言っている
私は外の蝉の声に耳を澄ませる
(「焦げ付いた影」)