間違い電話
悠詩
もしもし母さん
なんて云うから
母なんていない
と 返す
ごめんなさい
なんて云うから
迷惑なんてもらってない
と 返す
わたしはいつだってそう
なんて云うから
あなたのことは知らない
と 返す
こんなに冷たくされるのははじめて
なんて云うから
熱された覚えないから
と 返す
あなたと話せてよかった
なんて云うから
と 返す
井戸の外から放り投げられた
ありがとうすら
自由落下で突き刺さる
自分を騙して
周りを騙して
あのジオラマお嬢さまは
それでも凶器を落とさなかった
井戸の中の井戸に立つわたし
井戸の中にお嬢さま
井戸の外にお嬢さま
受話器を置いて立ち上がる
彼女がいたであろう東尋坊
消えたはずの彼女は
そこでこちらに背を向けて
こちらの基準で本物を選べるはずはなく
わたしの作り出した分身は
わたしにしか見えない
後ろからお嬢さまに抱きつくと
醜い強がりは消えた
ねえ 気づいてよ
わたしも気づくようにするからさ
あなたじゃないヒトとの
間違い電話は
もう切ってしまいたいの