牛とあるく
佐野権太
牛がこない
遅れるなよと言ったのに
メールさえ返ってこない
電源を切っているのだろう
遠くに
うすちゃ色のまーぶるがみえる
きっとあれだ
おーい、と呼ぶ
MOO―、と感情を長くのばす
太陽を見あげて、立ちどまっている
小さな流れに、鼻先をつっこんでいる
*
ようやくやってきて
ばふっと鼻をならす
くろい瞳が
たっぷり濡れているから
にくめない
おおきな頭をなでると
うれしそうに耳を垂れる
手のひらは
やっぱりあたたかい
ふとい首に腕をまわして
よりかかって
ちょっとだけ、泣いた
だいじょうぶ
だいじょうぶ
並んであるく
ともだちは
とてもおとなしく
あるく