帰れない夜
快晴

真夏の熱にうかされた人々が
都会のビル群の合間を闊歩する
私はひと時の避暑地を求めて
まるで逃げるように彷徨い歩く一匹の蟻

日が暮れても
太陽に照らされ続けたアスファルトは
ギラリと蜃気楼のように熱を放ち
私は人混みに紛れて電車を乗り継ぐと
かつて通い慣れた懐かしい街で降りる

10年前の真夏の夜に家を飛び出した時
私は小銭をポケットに詰めると靴さえも履かずに
246号線沿いを自転車でガムシャラに走った
行き先など何処にも無いことを知りつつ
ただ取り囲む全てから逃げ切るために
深夜の246号線はトラックが連なって走り
その排出するガスに時折口元を押さえながら

かつて通い慣れた街も様変わりして
行き着けだった店のいくつかは消えた
適当に焼き鳥屋を見付けて入り
焼酎をロックでチビチビとやっていると
いつの間にか終電の時間が迫り
とりあえず会計を済ませて外に出る

10年前の私は一体何を見付けたのか
結局、行き先も帰る場所も
自分ではまだ決められないということだったのか
多摩川を越えたあたりで私の体力は尽き
裸の足と自転車を引きずって
河川敷に自転車と共に体を横たえた
明け始めた空の向こうには何も見えず

君から「今どこにいるの?」とメールが届き
「もうすぐ帰るよ」と返信をする
アパートのある駅までの切符を買うと
酔っ払い達の並ぶ列の最後部に付く
しかし私はそれに乗り込むことが出来ず
ライトの消え始めたホームを後にする

あてもなく人通りの無い線路沿いに歩き
出来たばかりの靴擦れを気にしながら
未だ何処にも帰る場所が無いことを知る
ポケットの中で携帯が鳴り
「まだ起きて待ってるよ」とメールが届く


自由詩 帰れない夜 Copyright 快晴 2007-08-12 20:30:01
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