合わせ鏡
月見里司

 縦に長い大部屋の中
に、並べられた寝台、
おおぜいの男と女が寝
ている、昏々とねむり
に落ちている、灯って
いる照明はひとつもな
く、奥まで見渡せない、
暗闇よりあかるく、薄
闇よりはくらく、待っ
ている、おおぜいの男
と女が寝ている、昏々
とねむりに落ちている、
列車がはしり、揺るぎ
が大部屋にとどく、動
かない寝台、だれも寝
言を言わない、寝台が
増えて、おおぜいの男
と女が寝ている、昏々
とねむりに落ちている、
しろい球が弾けるよう
に、寝台は並べられて
いる、夜警がひとり、
下をむいてわらってい
る、光る虫が大部屋に
迷い込む、おおぜいの
男と女が寝ている、昏
昏とねむりに落ちてい
る、暗闇よりあかるく、
薄闇よりあかるく、決
してあかるくない、だ
れも寝言を言わない、
ふたたびの羽化を待っ
ている、扉から中を見
ることはできず次々、
寝台の下に、おおぜい
の男と女が寝ている、
昏々とねむりに落ちて
いる、光る虫は鳴かな
い、どんな音も大部屋
に入ってこない、下を
むいてわらう夜警、足
音はあたえられていな
い、懐中電灯はもって
いない、だれも寝言を
言わない、おおぜいの
男と女が寝ている、昏
昏とねむりに落ちてい
る、


//2007年8月11日


自由詩 合わせ鏡 Copyright 月見里司 2007-08-11 22:46:39
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