バナナフィッシュ
大覚アキラ

熱く焼けたアスファルトの上に仰向けになっ
ていると、自分がいかにやわらかい生き物な
のかということを思い知らされる。上空を横
切っていく六機の戦闘機が薄い影を落として
いく。羽ばたかない渡り鳥のように北から南
へと。毎日のようにテレビが喚き散らす「記
録的な猛暑」という言いまわしにいい加減飽
き飽きしてきた頃、唐突に夏の終わりがやっ
て来る。残暑の熱に湿っぽいシーツの上で焼
かれながら、死が覚めない眠りと同じだとし
たら、生きてるのと死んでるのと何が違うの
だろうかと考える。眼の奥に星が飛んで星雲
のようになっているあたりに眠りの底がある
ような気がして、そこを目指して落ちていく
イメージで眠る。そうやってぼくは今夜も死
ぬ。さあ、星の印をつけてまわろう。街中の
全ての壁に、ドアに、路上に乗り捨てられた
車のボンネットに、照明の落ちたショーウィ
ンドウに、丁寧に星の印をつけてまわろう。


未詩・独白 バナナフィッシュ Copyright 大覚アキラ 2007-08-09 18:24:45
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