摂理
由希
朝、道端で
仰向けに転がった蝉を見た
よく
蝉が陽の光を浴びられるのは
長い一生の中で、最後の幾日かだけなんだよ
可哀相だね
そんなことを聞くけれど
私は
そうは思わない
土の中にいる間
彼らはそれに適した姿をしている
そして、闇の中で過ごす
その数年間があるからこそ
やがて飛び立てる日が来るのだ
人間だって同じだろう
若く健康で
全てが自由になる時期は
生涯の中で長くはない
それだけを楽しみに生きる人など
いないだろうに
今日を謳歌できない者に
飛翔の瞬間は、永遠に訪れない
勇者の亡骸を
蟻がそっと運んでいった