「 へびかゑる。 」
PULL.
蛇に絡まれている。
もともとは、
蛇から少し離れて歩いていたのだが、
そうすると蛇が拗ねるので、
またいつものように、
蛇に絡まって歩くことになった。
蛇が、
森に帰ると言い出したのは、
夕べのことで、
何の気なしに言ったあたしの一言で、
そう決まったのだった。
言ってしまった手前、
行きたくないとは言えず、
あたしも自動的に付いてゆくことになった。
蛇と、
暮らしはじめてもう五年になる。
だけど、
あたしが蛇の森に行くのは、
これがはじめてだ。
あたしが一緒なのがよほど嬉しいのか、
下手な鼻歌を歌いながら、
蛇は夕べ徹夜で荷造りをしていた。
あたしはうるさくて寝付けなかった。
音痴の蛇は今、
巻き付いたあたしの肩で、
ぐうぐうと寝息を立てている。
のんきな蛇だ。
あたしは、
蛇の尖った鼻先を、
ぴんっと指先で弾いてやった。
蛇は、
どさりと落ちて、
地面の上でとぐろを巻いた。
赤くなった鼻先を尻尾で撫でながら、
蛇が涙目で文句を言う。
あたしは聞こえないふりをして、
言ってやる。
「道案内のあんたが寝てたら、
道に迷っちゃうでしょ。
そしたらあたし、
この森で、
食べ物がなくなってひもじくなって、
身近なタンパク源の、
あんたを食べちゃうかも。
それでもいいの?。
あたしに食べられたらあんたそれで本望?。」
蛇はぷるぷると、
首を横に振る。
「だったらちゃんと、
道案内してよね。」
蛇は頷いて、
すっと首を伸ばし、
きょろきょろと辺りを見回した。
どこかで、
蛙の声がする。
蛇の白い喉元がごくりと、
鳴る。
蛇の首が、
森の向こうを指す。
あたしは林道を外れ、
森の奥へ奥へと、
歩いてゆく。
あたしはまた、
蛇に絡まれている。
了。