彼の地 天草にて
渡 ひろこ

あなたが見せたかったという
教会は
天草のひっそりした漁村に
静かに建っていた


教科書でしか知らない
隠れキリシタンの弾圧が
この地であったというのか


何ごともなかったかのように
小さな漁港に面して
ひなびた瓦屋根の間から
洋館の塔の十字架が
水無月の空をさす


背後にかまえる神社は
この里の厳しい
忍従の痕跡だろうか
その神社への石段は
今はチャペルの鐘をかかげる
小高い展望台へとつづいている


三百四十段あるという
急な石段を
すでに息のあがった私は
あなたにぶら下がるように
手をひかれながら
一歩づつ登る



ところどころに
山ユリが
来訪者の足をとめるように
有明海からの潮風に
かすかにゆれている




レンズをむけられ
わざとはしゃいで見せる
私を
ファインダー越しにのぞく
あなたの目には
どう映ったのだろう


なかなか終わらない
石のきざはしを
大きな背中を見つめながら
踏みしめていく


こうやってあなたは
何の疑念もなく
もう一つの
怠惰で脆弱な人生を
これからも抱えていくのだろうか
重荷とせずに




やっとたどり着いた
展望台から
見下ろす教会は


澄んだ青を背景に
あまりにも絵ハガキのようで
なぜか私の核心には
迫ってこなかった


あなたの
純朴すぎる愛情に
似ているのかもしれない・・・


自由詩 彼の地 天草にて Copyright 渡 ひろこ 2007-08-08 19:19:23
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