詩はやってこない
楢山孝介


今日一日の出来事で
何か詩の題材になりそうなことはなかったかと
思い出しながらパソコンに向かう

その程度で詩はやってこない

一度机から離れ
床に寝転がり
明かりを手で遮って眼をつぶり
空想を頭の中で転がす
眠くなったりする
エロくなったりする
何か掴めそうになる
思わず手を伸ばす
眩しさに眼をやられて
掴めそうだった何かを手離してしまう

そんなことで詩は近付いてこない

さあ今日も行き詰まった
家でじっとしていてもどうにもならない
外へ出てしばらく歩く
バス停のベンチに坐り
街灯の明かりを頼りに
手帖にいろいろと書きつける
題名だけ書いて×をつけ
三行書いては×をつけ
五連書いては×をつける
最終バスはとっくに終わっているので
いつまでもバスはやってこない

いつまでも詩はやってこない

何もかもを放り出したくなり
もう二度と詩は書きませんと
宣言してみる
詩では食えない
詩ではモテない
詩は読まれない
書く理由なんてないじゃないか
もうさよならだ
見えない観客に向かって
棒読みでそんなセリフを呟いてみる
あまりに拙い演技に同情して
ようやく詩がゆっくりとこちらに歩を進め出す
なんて甘い展開にはならず
詩はむしろ遠ざかっていく

だから
こちらから詩に近付いていくしかない


自由詩 詩はやってこない Copyright 楢山孝介 2007-08-08 14:01:59
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