砂の栞*八月の日記
Rin.
潮のせいでくちびるの端にこびりついた砂を噛む
違和感
そのついでに日記にも砂をかませる
八月はつめたい
指先で這った波の曲線は
私の中では体温を持たない
数えるには遠すぎる夏
終わらせるには短すぎる夏
両のてのひらであおげば
かならず開く八月のページ
乾いた音をたてる血痕が
砂と戯れて眠る
*
ガラス張りのコンクリートリゾートから
都会の夜景を臨むとき
まだ見ぬ人の名が浮かんで消えた
忘れないように走り書きした日記のページは
砂をかんだ八月の汚れた白紙
*
貝殻でうたを紡ぐ
これが案外難しい
キーを叩けば夢はたやすく変換できるのに
八月のモチーフ
私の好きなものにだけ
届いたらいい
日記は砂をかむ
違和感
すら覚えずに
八月の形状だけをとどめた
背表紙が満潮に浸る