手弁当

無職になってしまった
のら猫にエサをやる
ドブ川の浅瀬を渡る
涼風に
酔いしれながら
手弁当で道草こいてたら
いつの間にかすっかり日暮れて
帰り道がわからなくなってしまった

火薬のにおいがする
水と小石のせとぎわに
ちゃぽん と足を投げ入れる
草むらめがけて猫が走り出す
光る輪のなかで唄う小学生
じめんのうえに
大量投下された
線香花火
ブタクサが揺れる
土手の芝の縁に立って
バケツを持ったおばはんが
こっちを見下ろしてる
エロ本がパタパタと風にめくれあがる
私は漢数字すら読めない
上司が喋る イングリシュー訛りの
とーほく弁は
カタカナばかりで
ひとつも理解できない

ほんとうは
何もかも
わかりたくなかった
ほんとうは 何もかも
わからなくなりたかった

ハート型に焼けて
つながった
番いの赤とんぼたち
鳶色の川面をゆっくり 横切って
あっちのビル群へと飛んでゆく
帰り道は おもいだせない

寝ぼけまなこで
こぼしてしまった
弁当箱のしゃりとともに
失ってしまった 私の
かえりみち

小腹がすいた


自由詩 手弁当 Copyright  2007-08-05 22:18:24
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