眠れない朝に
Rin K
眠れない朝にあなたを思う
夜を通り抜けて
窓越しに出逢うあさやけは
そこはかとなくかなしい
あなたを抱きしめるだけの日々に
空で時を知ろうとしなかったから
この部屋の窓には夕映えの記憶しかない
向かいのビルの反射ガラスを
円くくり抜いていた夕陽
気ぜわしい街角
またね、の声に混じる警鐘
ラムネの空き瓶はひび割れたまま
どこかの家からもれる甘く生きたにおい
杏色に沈む交差点
赤信号を溶かす背景
遠くで鳴る低いラジオの音が
いつもさざなみのように心を掻いた
夕陽は故郷に、母の胸に、あの日にさえも
立ち帰りたくさせるから涙声になるのだ と
まだ許しあえる程のふたりの隙間を
あなたはありふれた言葉で埋めようとした
切ない記憶は朱色の空にだけしかなかったから
僕は生まれて初めて
あさやけに泣いた
眠れない朝にあなたを思う
腕を緩めても逃げることのないぬくもりの形
あなたのやわらかさの一部始終の輪郭を
確かめているうちに空は紫を脱ぐ 窓越しに
夜を通り抜けて出逢ったあさやけは
夕映えより息苦しくて
あなたを、恋しくする