モラトリウム
木屋 亞万

ビニール傘を連れてバスに乗る
車たちはいつもより低いところ
色も形も残らない淡い流れ

信号の度に苦しそうな馬力
ため息つくバス停
鼻づまりアナウンス

ポケットを探ると298円3セント
終点まで320円かかるから
19セント足りない

終点2つ手前から歩く
バスの排気は天まで昇る
途中で見えない

火照る空気は準備中
ビニール傘は待機中
真昼の太陽は故障中

自分のいる町が嫌い

違うだろう
町にいる自分が嫌いなのだ

どこに行こうが
自分は変わらないかもしれない
終点まで走っても
自分は変わらないかもしれない

小銭はポケットで入り乱れる
でも18円3セントは変わらない
やはり19セント足りなかった


自由詩 モラトリウム Copyright 木屋 亞万 2007-08-05 00:21:36
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