山都
円谷一
山脈に囲まれている
翼を持つ者しか辿り着けない場所 君の住む山都である
ここに住む生き物達は皆翼を持っている 都の中心に神殿があって 生き物達は飛び交っている その景観といえば壮麗である 天国の建築物のような神秘さである
翼を持つ者以外は立ち入ることができない いわば翼が入都書である そして山都の生き物は地上の生き物と愛し合ってはいけないのである
山で遭難して瀕死のところを君に助けられた そして山都に連れて行かれて意識が戻るまで修道院で看病してもらった その間天使に介抱してもらう夢を見ていた
気が付くと修道女達が慌ただしく動き出して姿を隠すように! と言われて まだ動かない体を無理矢理動かして ベッドの下に隠れた しばらくじっとしていると 外から男達の声が聞こえてきて 翼の無い侵入者が入ってきたとの情報があったが! と厳しい口調で言っていた 咄嗟に自分のことだと思い 身を縮込ませて下から見ていると 鼻の良い翼の生えた豚が鼻をくんくんさせて辺りの匂いを嗅ぎ始めた ドキッとし 後ずさりして唾を飲み込むと突然香水の入った蒼いビンを君はわざと零して 匂いを消してくれた 怒鳴られ武器を向けられたが君は全く動じること無く振る舞い何とか危機を脱したのだ
星の綺麗な夜に外に連れ出されて君は笑顔で白昼の出来事を話し自己紹介した 修道院の裏の庭のすぐ近くの崖に腰掛けて 君はとても美しい横顔で色々な話を持ちかけた 花の蜜を集めて帰る時に倒れている姿を見かけ背中に背負ってマントを被せて なんとかバレないように山都に連れ帰ってきたこと 何度も神の母の名前を呼びながら高熱でうなされていたこと 眠っている間ずっと君が看病していてくれたこと 雨が降り続けたこと 目覚める昨日の夜に夢に出てきたことなど… 次から次へと尽きることのない話題で終始笑いっぱなしだった そして君にいつの間にか恋をしていた そのことを話の調子でつい喋ってしまうと 君は頬を赤らめて すごく嬉しい… 私も… と言いかけて口をつぐんだ どうしたの? と聞くと山都の生き物は 地上の生き物と愛し合ってはいけないという決まりがあるの と言い落ち込んだ様子で彼方の山脈に視線を注いでいた 心にある決心が湧き上がってきた 君の小さな手を握って この山都から出ない? と持ち掛けた 君は一瞬嬉しがったがすぐに戸惑いの表情を見せた そんなの無理よ… 山都人は一生ここから出てはいけないのよ! もし掟を破ってここから出たら… 神に雷を撃たれて死んでしまうというわ… そしたら私… あなたと結ばれることだってできないわ! どうすればいいの?… どうすればいいの?… どうすればいいの?… あぁ 分からない… 分からないわ… 教えて…!!
君は泣きついてきた 頭を撫で 一緒にここを出ようと誓い合いキスをした 君は大きな純白の翼を広げ満月を背に飛び上がった 君に腕を腰に回されて大空に体を預けて 何処からともなく集まってきた雷雲が目の前で光ったと思うと意識がふっと消えていった
気が付くとそこは天国だった すぐ隣には君がいてもう重荷だった翼は無くなっていた 君は笑顔で果てしなく広がる大地を指差し 共に駆け出して行った