真夜中だから
ポッケ
胸がつかえるような
泣き出す寸前みたいな
ぐるぐる回るくすぶりに
95%くらい持っていかれたから
そのままひとりになってしまいたかった
掛け布団をかぶって
端っこを全部なかに引き入れた
洗濯と髪と
うちの匂いがした
熱く湿気てきた布団の中から
にぎりこぶし一つ
外へ出して
気道を確保する
真夜中だから
「プリン食べる?」と
トンネルをのぞくように声を掛ける
ちいさな母親はいない
短いひとり旅と
布団から
昼寝のあとのように素っ気なく抜け出し
薄暗く狭いキッチンを
ぶつかりながら冷蔵庫まで歩いてゆく
紙パックの100%オレンジを
ちびちび飲みながら
「オレンジジュースを飲むと寝付きがいい」と
セルフ健康法を実行する父を思い出す
ついでに「マミー」が好きで野菜嫌いな兄も思い出す
薄暗いキッチンの中
もと来たルートをたどる
今度はぶつからない
布団は腹の上に真一文字にのせ
いくぶん爽やかな心持ちで目をつむった
オレンジジュースが虫歯に及ぼす影響だけが気にかかった