みどり 双つ
木立 悟
内に外に転がる音の
離れてもなお近しい音の
ふさふさとした
柔毛の音の
遠さは鼻先のまま香り
同じ色の大きさに降り
布をくぐる
まぶしい輪唱
ある日どこかで失った
もう片方を呼びつづける声
渦は鳥に 傷は骨に
化生の胸の闇を敲く
互いに離れ かがやくものに
ひとつではないと気づかされ
泣いて昼の星を視るとき
昼の星の遠さを知るとき
貝の空が降りてきて
荒れる海を真似ている
目の下に目を貼りつけて
涙を視線で堰き止めている
昼の道には片手しかなく
すぎゆく羽の色に染まる
川へ沈みかけた大木に触れ
風は鳥に 雨は蝶になる
欲めぬようで欲める腕が
ひとつではない軌跡ににじむ
皆と共に居られぬ化生
ひとりを彩る祭の化粧
灯も月もなく見えるものらが
ただそのままにそこに居る
元は双つの遠い片方
はじまりのはじまりの名前をつぶやく