耳鳴る
霜天

ラストオーダーは君に。
と言いながら僕らに。
手の届かないあれやこれや、
ただ内に抱えながら歩く姿は美しいのかどうか。
僕の中で耳鳴るしかない言葉が、君には大声で聞こえているらしい。
それが困ることなのか、どうか。


やがて、などと言って。
あの頃を景色に変えてしまえるのは、
僕らの特権のような、
拘束、のような。


思い出せない思い出ばかりが耳鳴る。
進みたい街角がいつの間にか後ろに傾いて、
かたちになれなかった家並が夕日に溶けていく。
エスカレーターには逆らえない。
運ばれていく塊、一日の揺らぎという揺らぎ。
君には聞こえるあの声が、いつもわずかに耳鳴る。


朝の景色が、
それだけで綺麗に見えてしまう。
通り過ぎていく物事に別れを告げる言葉を投げると、
世界はそれだけで傾いてしまう。
遠くなることも、霞む景色も。




ハロー、グッバイ。
それだけで暮れていく手の届く世界の内で膝を抱く。
いつも遠く、海の音が耳鳴る。


自由詩 耳鳴る Copyright 霜天 2007-08-02 19:53:38
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