< 生 活 >
ポップこくご

スーパーで仲良く買い物をするカップルを見かけた

はじめて彼氏の住まいへと招待されたようで

得意料理や揃っていない調味料の話が

すでに食前酒よりも効果を発揮している

他の買い物客よりはるかに歩幅の狭いふたりと

慣れたコーナーワークで簡潔に用事を済ませるご婦人方

そして 半額セールの惣菜を買うや買わざるやな僕

時間軸は見事に狂っているが

ゆったり きびきび どんより流れる時空は心地よい

突如現れた作務衣姿の太鼓腹が

目を大きく見開いた彼氏と鉢合わせる

作務衣の自転への同調を嫌う若者は

二つ三つの言葉と共に

少し変調をきたしながら母船へ戻る

だあれ?

うん、親父、

一瞬ながら周囲の時は止まり

今やヨタヨタと最徐行するふたりの行く末を案じる

単独行を望まぬ初老の親父は

よどむ空気を切り裂き電車道

彼女て お前 紹介も なしか?

うん、 ナカタニ さん、

大きく狂いだしたふたりの時間軸のいちばん端っこのところで

ハジメマシテ

と初交信

今や母船のない一団は

進まず 退かず 止まらず 笑わず

ただ発信源もないのにひたすら指令を待つ

ひるむな青年

世界一美味なるものを 口にする前に

さばかねばならぬものが目の前にあり

美味しいよと微笑む前に

彼女をもっと その気にさせる課題が

この空間にこそ存在するのだ

安い惣菜と発泡酒をぶら下げ

中途半端な月光の下

僕は家路をたどる

俺にもそんなこと あったのかもね

ずいぶん昔で 忘れたけれど


自由詩 < 生 活 > Copyright ポップこくご 2007-08-01 20:34:54
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