◆美しいよる
千波 一也



不可思議と呼び捨てるにはまだ早い
猫の目うるる、美しいよる


いくすじも星をえがいてよるが降る
ふたつ並んで揺られあう尾に



滅びても興り続けた王国をたどり違える満月のした


どこまでを出口と決めれば良いのだろう
実るともなく色あざやかに


受け継いだおとぎばなしを燃やすよる
灰になるまで朝日は来ない



にせものの兎が告げる時刻には男が匂う
「孤独だ、みんな」


腕に抱く女の匂いにかばわれて狼の意は浅く眠れる


天空の花かもしれない爪に射す梯子の途上であい狂い咲く


戻れない場所はどこかと問うている
言葉の向こうに聞き耳たてて


蜘蛛の巣のしずかな真昼を彷彿と熱の理由と手触りを狩る



錆びついた鉄の味覚に棲みついて海とうおとに不浄が群れる


不器用に変幻自在な鍵穴をひかり満たして水音がゆく


鮮やかな水の気配に誘われておだやかに凪ぐ疑問符の波



すくわれて尚すくわれるこころなら
裏も表もまっさらに、よる


恥じらいを重ねてよるは美しくひとの誤解にすらり、寄り添う







短歌 ◆美しいよる Copyright 千波 一也 2007-08-01 08:56:32
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【定型のあそび】