信念の塔
悠詩

「昨日と言っていることが違うよ」
「考えが変わったんだ」
「日和るんだね」
「そうかな」


  +   +



この空のどこかに宝が埋まっている
この空のどこかに宝が埋まっている
羽根をまき散らしてカケスがわめく

ぼくは天を仰いだけど
ちりばめられた大気の呼吸の
ひとつひとつが眩しくて
ぼくは視線を下げたけど
息づいた草花の色の
ひとつひとつがうつろっていて

だからカケスのさえずりも
天から授かった讃歌と聴けば
手を伸ばしたくなるのか
そのフラットに足踏みを
その変拍子に挫折を
そのコーダに回生を

手探りで目的を求めていたひとたちは
神にまみえる塔を建てはじめた

石の塔
 木の塔
  雪の塔
   針の塔
    粘土の塔

意志
  気
   勇気
     信
      念

自らの道を螺旋階段に託し
作っては壊し
登っては落ち


賢者と呼ばれていたぼくの兄は
みんなの試みと過ちをただし
じっと物思いに耽っていたけど
突然井戸の下の樹海にこもり
季節が一巡りする頃
ひとつの塔を建てはじめた

「兄さんも天の宝が欲しいの?」
「宝を得るためではない
 自身の塔を造ることに意義がある」

石の基礎
 木の柱に
  雪の装飾
   針のかすがい
    粘土の壁を

意志に目覚め
 気を拾っては
  勇気をいだき
   信念を積み上げ

一日考えては一段
十日考えては一段

「そんなんじゃみんなに先を越されちゃうよ」
「自分で自分を裏切らないかが
 問題なのだ」



やがてみな
カケスの笛から背を向けだした
宝なんてありゃしない
放り投げた年月がくれるのは
天まで辿り着いたことへの栄誉だろうと

「兄さん 空にはなにもないんだって」
「それで構わない
 わたしはおのれを確立したいんだ」

空の宝石も
大地の旋律も
知悉しているのに
賢者は飽くことなく
とうとう天に至る塔を積み上げた

賢者は十日間眠りこけたあと
パンのかけらを手に
天に発った


季節が一巡りする頃
賢者は大地に舞い戻った
手には
精霊の優しさと
   厳しさと
   強靭さと
   弱さとを
   象嵌した
斧を携えていた

全てを断つ信念の斧
全てを絶つ信念の斧
羽根をまき散らしてカケスがわめく

本当に宝は埋まっていたんだ
みんなは賢者の信念を称え
天に至る塔に
信念の塔と名付けた



「お兄さん 嬉しくないの?」
「まだ足りないのだ
 わたしは出発点に立ったに過ぎないのだ」

賢者は信念の塔の入り口を閉ざし
突然井戸の下の樹海にこもり
季節が一巡りする頃
信念の斧を手に
姿を現した




賢者は


その瞳に


今までになき光と


今までになき信念をいだき


天に至る塔に


ためらいなく



信念の斧を



振りかざした









自由詩 信念の塔 Copyright 悠詩 2007-08-01 00:14:41
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