白い切符
なかがわひろか
真っ白な切符が出てきた
何も書かれていない
小銭がなかったので一万円札を入れたのに
お釣りは出てこない
駅員さんに文句を言おうと切符を見せると
カチッとスタンプを押して
改札を通して
人波とは逆の方向へ私を案内した
私はお金を返して欲しかったのだけれど
駅員さんは私に何も言わせず
むっつりとしたまま
黙って私を案内した
誰もいないプラットフォームで
私は一人きりにされた
じきに電車はやってきた
行き先を見ると聞いたこともない場所だった
私は家に帰りたかった
もちろんお金も返して欲しかったけれど
とても疲れていたので
早く家に帰りたかった
行き先の分からない電車に乗っている場合ではない
ドアが開いた
私は乗らなかった
運転士が下りてきた
それでも私は拒んだ
運転士は仕方なく
私を置いて
電車を出発させた
行き先の知らない場所へ
私は行かなくてよかった
私はしばらく待って
また駅員さんが来てくれないかと待っていた
誰も来なかった
私は来た道を戻ろうとしたけれど
出入り口も通路も
何もかもがなくなっていた
私は誰もいないプラットフォームに
一人だけだった
きっとさっきの電車が
ここから抜け出す手段だったのだろう
私はそう思った
私は電車を待った
私はたった一人で
電車を待った
電車はまだ来ない
(「白い切符」)