スモーク
快晴
ハタチの彼女は或る未明に首を吊った
自殺は美しいものなんかじゃないと
それは彼女だってとっくに知っていただろう
ただそんなことに構ってはいられなかった
葬儀場で見た横になった彼女は
首吊りの名残を感じさせないぐらいに綺麗で
瞼の裏に焼き付けようと思ったけれど
凝視出来なかったのはなぜだろう
彼女と付き合っていたという男が
知り合いの参列者に挨拶をして回り
私も初対面だったが一緒に煙草を吸った
それはいつもより肺に重たかった
彼は金髪だったが板前の見習いらしく
板前なのに金髪でいいのかなんて思ったりした
葬儀場の休憩室ではビールなどが振舞われ
彼女の同級生達が同窓会のように笑っていた
葬儀場を後にして友人と歩いていると
ふいにそいつが葬儀場を振り返って
もうもうと煙を排出し続ける建物を指し
「チカちゃんも煙になっちゃったね」と言った
もし君が本気で死にたくなった時
たとえ真夜中でも私に電話をかけて欲しい
まだ起きていたらの話だけど
「馬鹿だな」って笑い飛ばしてやるから
そうして私は今夜も真っ暗な台所に立ち
切れない包丁を手首に押し当てている