スモーク
快晴

ハタチの彼女は或る未明に首を吊った
自殺は美しいものなんかじゃないと
それは彼女だってとっくに知っていただろう
ただそんなことに構ってはいられなかった

葬儀場で見た横になった彼女は
首吊りの名残を感じさせないぐらいに綺麗で
瞼の裏に焼き付けようと思ったけれど
凝視出来なかったのはなぜだろう

彼女と付き合っていたという男が
知り合いの参列者に挨拶をして回り
私も初対面だったが一緒に煙草を吸った
それはいつもより肺に重たかった

彼は金髪だったが板前の見習いらしく
板前なのに金髪でいいのかなんて思ったりした
葬儀場の休憩室ではビールなどが振舞われ
彼女の同級生達が同窓会のように笑っていた

葬儀場を後にして友人と歩いていると
ふいにそいつが葬儀場を振り返って
もうもうと煙を排出し続ける建物を指し
「チカちゃんも煙になっちゃったね」と言った

もし君が本気で死にたくなった時
たとえ真夜中でも私に電話をかけて欲しい
まだ起きていたらの話だけど
「馬鹿だな」って笑い飛ばしてやるから

そうして私は今夜も真っ暗な台所に立ち
切れない包丁を手首に押し当てている


自由詩 スモーク Copyright 快晴 2007-07-31 07:12:15
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