平凡な旋律
松本 卓也

夕暮れの歩道橋で見ている風景
行き交う人波が思い思いに辿る家路
西と東と北と南を結ぶ交差
自分の影と誰か達の影が
重なってはゆっくりと離れていく

言葉を交わす事さえ無い
デジタル時計は秒を数える事もなく
終わり行く今日の刻印さえ置いてけぼり

そよそよと耳元を通り過ぎる
風が口ずさむ歌声にあわせて
手拍子を叩いてみせようか

嘆きの詩を奏でてみたり
悲しみを手すりに並べてみたり
ただぼんやりと表情さえ見えぬ
誰か達の経路を見送ったりして

視界に飛び込む蜻蛉の群れ
なぜかしら絡み付いてくる蚊柱
騒音と排気ガスに包まれて
酒の匂いが少し混じる黄昏
頭だけ冴えていく割に
心はいつも遠くに飛んでいく

月が淡く白く囁きかけて
一滴の哀れみを投げかけてくる
ただ遠く平行に交錯していく
歩道橋を通り過ぎる雰囲気に
相応しい言葉を探してみた

ただ何となく泣いているようで
ただ意味も知らず笑いかけるようで
自嘲か幸福かさえ判別がつかないまでも

埃が纏う夢が一片
目の前で弾け飛んでいく
今日誰の生き様が曲がったのか
知る術は無いのだけど

見送る視線の先で
明日が幸福であるようにと
願う祈りが有ってもいいじゃないか

笑顔が濯いだ昼間の屈辱
約束した覚えの無い温もり
そこかしこで儚く現れ静かに消えて

一日分並んだ言い訳をひと摘み
空に放ってみたならば
弦楽器を爪弾くように
寂しげな音楽を奏でるだけで

街に生まれた哀しみを一つ
ポケットに詰め込んでみようか
誰も詠わない平凡な夜の旋律を
夜空の譜面に書き落としていたい


自由詩 平凡な旋律 Copyright 松本 卓也 2007-07-31 01:35:19
notebook Home