楽園へ
下門鮎子

広場で
子どもたちは跳ねて
黒い風船を次々にはなす
風船は昇る
子どもたちの皮膚

はがれた部分からにじむ血で
赤く分かり、集まり、内に落ちて
子どもたちは薔薇になる
誇らしげに、あるいは寂しげに
棘で身を守って
いよいよひとり

風船は次々に
はなされ、はじける
風船の切れ端の統べる世界

はじけた風船からこぼれ落ちて
細胞が降る
雨のように
あまねく降りわたって
地上の体に新しい部屋を作り
薔薇の棘をやわらかく育てる

世界とは何? と男が問う
何が世界? と女が問う
どちらでもなく
どちらでもある者は言う
薔薇は遊ばせておけ

男が雲の上で風船の切れ端と戯れるとき
地上では無数の薔薇が
棘をゆっくり伸ばしている
棘は腕のように
となりの薔薇をしっかりつかみ
ついにしなやかに絡みあった薔薇たちは
一輪ずつ名を呼ぶ女の声に応えて
そのつぼみを開いた

もう雲の上へは行かない
薔薇は女になる
薔薇は男になる
そしてどちらでもなく
どちらでもある者に


自由詩 楽園へ Copyright 下門鮎子 2007-07-30 17:40:09
notebook Home