犬の詩が聞こえる
悠詩

犬は閉ざされた窓から外を見上げ
うごめく棕櫚の森に耳をすませていた
そこに勝手な押しつけや創造はなく
素直な発見に頷くまで
あるいは発見がないと悟るまで
心を離すことはないのだろう

犬はわたしの顔を見つめていた
こちらの着飾った呟きに
耳をぴくりぴくりと動かしていた
瞳は世界から享受されたもので
世界の慈悲を享受するもので
わたしの醜い口を
ためらいもなく認めてくれた
アーモンド形に輝くその瞳に
キスをしたかった

言葉なんて分からないのに
分かったような顔をして
時折小生意気に首を傾げて
にこ毛をいだくその身体を
抱きしめたかった



犬には分かっていた
少なくともわたし以上は

ごかましにまみれたわたしの奥にある
素直な心に





犬は時々裏切った
でもそれはわたしが裏切ったからだ
犬には分かっていた







犬がいなくなった今も
わたしはその名前を呼ぶ
呟き続ける
飾った言葉に
少しだけ本音を混ぜて
わたしを分かってくれていると
知っているから



棕櫚の森は今日も歌を歌う
わたしは犬の名を呟き
耳をすませている


そこに聞こえるのは






自由詩 犬の詩が聞こえる Copyright 悠詩 2007-07-30 12:46:29
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