ゆきちゃんの想いで〜教育についておもう〜
池中茉莉花

18歳のわたし
初めての アルバイト
働いてみたかった ただ それだけだった

ひょんなことから 15歳のゆきちゃんと巡り会った
「家庭教師をしてください」
でも、ゆきちゃんにはお金がなくて月謝は3000円
最初はしぶしぶだった

だけど、
ゆきちゃんの目が
求めてた
ゆきちゃんの目が
訴えてた
ゆきちゃんの目が・・・

    ゆきちゃんのお母さんは 寝たきりだった
    ゆきちゃんのお父さんも 病気だった
    でも お父さんは 徹夜で仕事をしていた
    中学生なのに、学校に行けるのは週に3日
    だってお母さんを誰が看るの?
    ゆきちゃんしか いなかった
    「学校に行きなさい」と
    お母さんは いったけど
    ゆきちゃんには できなかった
    お母さんが 大好きだったから
    お父さんが 大好きだったから

A,B,Cもやっとだった
名前を書くことから始まった
英語の教科書を 全文暗記
いま考えれば きつすぎた
自分にできないことまで 子どもに要求したのかな

入試まであと3ヶ月しかなかったから
1年生の勉強まで とにかく一緒にやろうと思った

大雪が降った 吹雪いてるの ゴウゴウ音をたてながら
来ないかもしれないね 来るかしら?
わたしはピアノを弾いて待った 明るい曲がいいかしら
子犬のワルツ ちゃんぷがくるくる
そのとき ゆきちゃん ずぶぬれで 飛び込んできた
宿題は? 全部やった 学校は? 行かなかった どこでやったの? 病院で
でもゆきちゃんの目は 笑っていて
不幸の影をみせはしなかった

外は氷点下10度 今日は来るかしら?
ドーナツ 揚げながら 待っていた
やっぱり にっこにこ 笑ってきたの 学校には行けなかったのに

ドーナツをほおばって ゆきちゃんがしゃべる
「おねえちゃん、失恋したよ」
でも わたしったら 恋なんてしたことなかったから
「さあ、勉強よっ」て急きたてた
バカだよね わたし 聴いてあげるのが 教師よね

そんな こんなで いっしょに 選んだ高校
のんびりモードの学校で わたしの友達も数人行った
評判は わるくない
学校の先生は心配したけど ゆきちゃん ちゃんと うかった

でも喜ぶきもちを抑えて言った
「これからは、学校の先生にかじりついて、解るまでちゃあんと勉強してよ」
ゆきちゃんは はちきれそうな 笑顔をみせた
「これからも、いらっしゃい。お金は払わなくていいからね。」

でも 来なかった
来なかったんだ

半年後、風の便りに聞いたんだ
ゆきちゃんが、退学したって

わるいことなんか していない
ゆきちゃんは 私のいったとおり、先生にかじりついたんだ
そして、学年で一番とった

「わたし、大学行きたいな」

その一言をどう受けとめる?

がんばれば、できるよ。あなたなら、できるよ。
あなたの目は 飢え乾いてる
学びたさに  乾いている
シリカゲルみたいだよ、ね
隙間に いっぱいいっぱい水を含んで
おおきく、おおきく、なぁあれっ

でも、高校の先生は違ったんだ
「うちの学校で一番とっても大学はムリだよ」

先生がみんなそんな人ばかりじゃないのはわかっているんです
でもね
少なくてもゆきちゃんに関しては
そういった先生がいたのです
先生たちが忙しすぎるのが問題なのかもしれないけれど
先生だけを責めることはできないのも 確かだけど

彼女は学ぶことを諦めた
可能性の 塊だったのに

わたしが受け止めてあげるべきだったね
もどってくれば いいのだけど
いまだって 遅くはないのだけど

それとも かじりつけなんて
いっちゃだめだったのかしら

風が強く吹いています
雨がざあざあ降っています
こんな凍えそうな日、ゆきちゃん、あなたのことを想いだすのです


自由詩 ゆきちゃんの想いで〜教育についておもう〜 Copyright 池中茉莉花 2007-07-29 21:42:34
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