ノート(火と自乗)
木立 悟




目を閉じ
骨を確かめる
歯のかたち
牙のかたちを確かめる


地平線まで
指はのびる
ひらいた骨が
永さを失くした海を奏でる


あらゆる証書が
毛虫のようにうごめいている
なんの証しにもならないまま
脱皮しては飛び去ってゆく


牙に変わる 牙に変わる
こすれ ぶつかり
折れつづけなお
歯は牙に変わりつづける


蓋はずれ
蓋は回る
水の濁りを振り返らずに
元の器から離れつづける


虹に刺さるひとつの羽
縦は常に隔たりを描く
少しずつ少しずつ少しずつ割れ
少しずつ少しずつ微笑んでいる


骨だけの傘に飛沫はひらき
外を映して赤く染まる
使い古された鉛筆が
削られてもいない鉛筆に呑みこまれてゆく


明かりと水と
その二乗
油 手まねき 火のとどくまで
泡とくすぶり 火のすぎるまで


見えない熱が 原を燃やす
人を憎み 街を壊す
見える熱の背は蒼い
見たものは皆 蒼に焼かれる


道は炭になり
牙は残り
海と月を
見つめ返す














自由詩 ノート(火と自乗) Copyright 木立 悟 2007-07-28 09:22:49
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