赤い血の温度
なかがわひろか

腕を切ったら
赤い温かい血が流れて
ああ、こんなに温かいのに
体にあるときは気づかない

私は思って
そんな風に思って

湯船に世界地図のように広がる赤い水面に
行ってみたい国を指さして遊んだりして

そんなことをして遊んだりして

また水面は形を変えて
私の生まれた国も形を変えて

漂って
明日の朝、湯船の壁面に水平にこびり付いた
赤い跡を洗い流す母の姿を思い浮かべて

私は少し眠って

ぽちゃんと落ちる冷たい水滴が
ひやりと私の背中を伝って

私ははっと目を覚ます

(「赤い血の温度」)


自由詩 赤い血の温度 Copyright なかがわひろか 2007-07-28 00:44:02
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