赤い血の温度
なかがわひろか
腕を切ったら
赤い温かい血が流れて
ああ、こんなに温かいのに
体にあるときは気づかない
私は思って
そんな風に思って
湯船に世界地図のように広がる赤い水面に
行ってみたい国を指さして遊んだりして
そんなことをして遊んだりして
また水面は形を変えて
私の生まれた国も形を変えて
漂って
明日の朝、湯船の壁面に水平にこびり付いた
赤い跡を洗い流す母の姿を思い浮かべて
私は少し眠って
ぽちゃんと落ちる冷たい水滴が
ひやりと私の背中を伝って
私ははっと目を覚ます
(「赤い血の温度」)