夜のころも
木立 悟
雨がひらき
匂いは昇る
あたたかく 甘く
光になる
白い歯車
心をまわし
雲の映らぬ涙になる
手のひらの空に繰りかえし
現われては消え 叫ぶもの
二分きざみの歴史のはばたき
夜の鏡のなかに増え
あふれては底につもる色
夜から夜へ降りつづけ
雲の後ろを見つめている
手に手にかがやく渦を持ち
遠い嵐を照らしている
海へとつづく道をゆく子ら
風と波と原の音が
一枚一枚重なって
生まれたままの姿の子らに
鈴のころもを着せてゆく
腕を伝い
水は指のかたちに落ちる
枝を伝い 土を伝い
指のかたちのまま落ちる
遠いです 遠いです
遠いから火で 光です
夜を見つめる歯車に
雲はからまり 甘く匂う
綿菓子のように甘く匂う
かがやきは差異 かがやきは差異
音は音をまたたかせ
緑は緑をまといながら
波打ちぎわを歩いてゆく
みな騒がしく静かに消えていき
砂の上の足跡も轍も
子らとともに眠るとき
小さく小さくたたまれたまま
ころもは波を口ずさんでいる