新しい名前をもらって
ブルース瀬戸内

新しい名前をもらった。
前の名前が気に入らなかったわけではないが
やんごとなき事情で
今日から新しい名前で生きることになる。

前の名前を突如捨てるのは
勇気がいるし、惜しいものだ。
名前ごときと言うなかれ。
アイデンティティーの構築に
陰に陽に関与するものなのだ。



新しい名前をもらった。
最初はぎこちないだろう。
前の名前の時もそうだった。
私は前の名前でもって
世界と折り合いをつけてきたわけだから
新しい名前となると
それなりの調整も必要になる。

新しい名前を紙に書いてみる。
前の名前をその隣に書いてみる。
もはや前の名前には戻れないし、
といって新しい名前もまだしっくりこない。
何だか宙ぶらりんな気分だ。
今、私は誰でもないのではないか。
そんなことを思う。

私は新しいパスポートを開く。
新しい名前と、私の写真がプリントされている。
少し、老けた気がする。

私は今日、新しい名前をもらった。

携帯電話が鳴る。予想どおりだ。
新しい仕事が、また始まる。

時々、本当は何を偽造しているのか
さっぱり分からなくなる。


自由詩 新しい名前をもらって Copyright ブルース瀬戸内 2007-07-25 21:39:06
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