創書日和「星」 初恋の人
逢坂桜
星を見上げると、祖父を思い出す
ざんばらな真っ白の髪の毛
しわが寄った眼や口元
背は高いから、いつも見上げていた
子供の頃、夏の夜、並んで歩いた
隣の祖父が立ち止まり、振り向くと、空を見上げていた
「じいちゃん?」
呼んでも、見上げたまま
「じいちゃん」
「星を見よるとな、昔を思い出すんよ」
つられて見上げたが、ただ、星があるばかり
そのころの自分に、「昔」などありはしなかったが
「そうだな・・・思い出す人が、おるよ
あんなふうにちいそうても、
芯のしっかりした人じゃった
あれが、儂の初恋だったんかのう」
悲しそうな顔で、硬い手で、あたまを撫でてくれた
夏の星は、祖父と、忘れがたい人を、思い出す
長い長い時間を掛けて、祖父の眼に届いた光
過ぎた時間を呼び戻す光
小さく熱く、どれほどの時間を露ともしない
それは、いまも胸に残る
初恋の人に、似ている
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創書日和、過去。