創書日和「星」  初恋の人
逢坂桜


  星を見上げると、祖父を思い出す

  ざんばらな真っ白の髪の毛

  しわが寄った眼や口元

  背は高いから、いつも見上げていた


  子供の頃、夏の夜、並んで歩いた

  隣の祖父が立ち止まり、振り向くと、空を見上げていた

  「じいちゃん?」

  呼んでも、見上げたまま

  「じいちゃん」

  「星を見よるとな、昔を思い出すんよ」

  つられて見上げたが、ただ、星があるばかり

  そのころの自分に、「昔」などありはしなかったが

  「そうだな・・・思い出す人が、おるよ

   あんなふうにちいそうても、
   芯のしっかりした人じゃった

   あれが、儂の初恋だったんかのう」

  悲しそうな顔で、硬い手で、あたまを撫でてくれた


  夏の星は、祖父と、忘れがたい人を、思い出す
  
  長い長い時間を掛けて、祖父の眼に届いた光

  過ぎた時間を呼び戻す光

  小さく熱く、どれほどの時間を露ともしない

  
  それは、いまも胸に残る

  初恋の人に、似ている



自由詩 創書日和「星」  初恋の人 Copyright 逢坂桜 2007-07-25 10:43:54
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