世界の中心はマントルだということ
土田

世界の中心はマントルだという事実に
ぼくはすこしだけ救われたような気がする
目をこすって目ヤニを落とすと
朔ちゃんとの思いでもひとつずつ
オノマトペでも表せない音で
それはあたり前の日常のように
どこか近くて遠いところへ落ちてゆく
ぼくが生まれた日
朔ちゃんはもう四十五年も死んでいた

なぁ、朔ちゃん
朔ちゃんがずっと探していたものは
いったい何だったんだろうなぁ
朔ちゃんにしか見えないせかいの地続きを
朔ちゃんはその端正な顔つきに似つかない変な歩きかたをして
いまも地面の底の病気の顔の上で
お気に入りの皮の靴の底を
すり減らしてしるのかなぁ

なぁ朔ちゃん
ぼくの住む街の風景は
とっても賑やかで
夜はネオンがきらきら輝いて
とってもきれいだよ
ぼくは秋田の田舎からこの都会にきたんだよ
でも朔ちゃんの嫌いな上州前橋の山々はもう
たくさんのビルで見えなくなった
ここには月に吠える犬も
のをあある とをあある やわあ
なんて鳴きながら飼い主を見つめる猫もいない
ぼくが住むせかいはひどく機械的で
諦観と低回が渦をまいて
ぼくを巻き込まずに置き去りにしてゆくんだ
ごめん朔ちゃん
朔ちゃんが好きだったこの都会を
ぼくは愛せそうにないよ

世界の中心はマントルだという事実に
ぼくはすこしだけ救われたような気がする
目をこすってまた目を開けると
そこにはまったく変わりようのない
あたりまえの日常がそこにあった
オノマトペでも表せない音に
なぁ朔ちゃん
ぼくは口語でどもることしかできなかったよ
朔ちゃんが死んだ日
ぼくにはまだ四十五年も時間があったというのに


自由詩 世界の中心はマントルだということ Copyright 土田 2007-07-25 07:47:44
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