君は友達
楠木理沙

昨日友達と会ったら 友達じゃないことが分かった

剥げ落ちた友達の抜け殻は 少し目を離した瞬間にどこかに行ってしまった
目の前の元友達は 公判中の元少年みたいで 何者か分からない存在に思えた


抜け殻は参院選のポスターの横にさりげなく貼り付けられていた
公約は絶対に守ると記されていたが 肝心の公約は書かれていなかった

抜け殻はK∸1MAXのミドル級王座準決勝に出ていた
ローキックを主体に善戦したが インターバルの給水が致命傷になった

抜け殻はミュージックステーションに出演していた
最後まで楽屋から出ずにほくそえんでいたが タトゥーの前例を知らなかった

抜け殻は小学校で教鞭をとっていた
いじめは絶対にいけないと熱く語ったが 相談は受け付けられないと言った

抜け殻は詩を書き始めた
詩を書くのが好きなのではなく 詩を書く自分が好きであることに気づいた

抜け殻は路上で弾き語りを始めた
歌うべきことがないのに歌っている自分に涙し それを歌にした


抜け殻は元友達にかぶさった
元通りになった元友達の友達が わたしたち友達だよねと言ったから
わたしはうんと答えた

少しだけ体がむずむずしたけれど それはたぶん気のせいなんだと思う



自由詩 君は友達 Copyright 楠木理沙 2007-07-25 04:48:11
notebook Home