3度目の原爆2
円谷一

瓦礫の海を躓かないように慎重に歩きながら
君の姿を盗人のような目つきで懸命に探している
廃墟の中 放心しきったストリートミュージシャンの少女がアコースティックギターの虚ろな音を鳴らしている 一円玉をギターケースに入れて虚ろな音を立てたい気分だった 傷付いた人々は疎ら 空は黒い雨を出し切って白く薄い雲間から笑顔を出している
関東平野が一瞬にして火の海になり 大都市の跡地となった
アメリカ軍の救助隊はまだやって来ないのか 肩から炎で破れたTシャツをぶら下げて 真っ黒な裸足で水も食べ物も5日も採っておらず果てしない跡地を歩き回った
地下鉄への入口の建物が吹き飛び階段だけになっている真四角の穴から地上の状況で混乱を起こしている人々が出てきた 溢れるほどに出てきてただ呆然と遙か向こうの黒雲から降り注ぐ雨を見ている 誰かが大声を叫び出すとそれに続くように無我夢中になりながら思い思いの方向へ全力で散っていった 地下でも大パニックになっており 殺し合いをするような喧騒が木霊している 自販機や売店や商店街を荒らし 持てる分だけ持って地上へ駆け出し 一瞬呆然とした後 大声を張り上げ黒い雨の中へ入っていく
電車が溶けていて原形を留めていない 車輪を上にして倒れている 無数の自動車 その中の丸焦げの運転手と同乗者 子供が真横を指差したまま硬直している まるで瓦礫の大波が街を覆い被さったように見える
君のマンションは無かった きっと途轍もない威力の爆風に吹き飛ばされてしまったのだろう 君はあの時通学途中だったはずだ ヘリコプターが喧しくやって来る どうせ米軍の偵察機だろう 僕は一応両手を上げて何度も何度も振り続けた しかしヘリは上空を何回か旋回してどこかへ行ってしまった
地下鉄は大混乱だった 全てを探し回っても君はいなかった 日が暮れ 寒々しい夜となった
ちゃんとお金を払って上着を着て夜の東京を歩き始めた 何千万ドルの夜景は何処にも存在しなく 未だに燃え続ける建物などの灯りが果てしなく広がっていた 全身火だるまの女性が僕に目がけて抱き付こうとした 僕は恐怖の声を上げてその場を退けた 黒い雨が風に流れて降ってきて水溜まりができそこに女性は頭を突っ込んで炎を消そうとしたが傷口に激痛が走ったのか 大きく絶叫しその場で息を引き取った 僕は瓦礫を退けて地面を素手で掘り起こし女性の遺体を埋めてあげた お祈りをして十字を切った
夜が更けても人々の絶叫と雨の激しさと爆発音と人間の肉色の空は途絶えることがなかった 僕にはもう君を探す力が無かった 圏外の携帯電話は青く細々と時刻を示していた 僕は携帯電話を叩きつけ 涙を流して原爆雲を仰いだ 街は砂となって消えるように存在感を失っていった あるのは虚無という名の現実だけ 被爆した人達は溶けた蝋人間が誰かにマリオネットで操られているみたいで呼吸もまならないまま徘徊していた そしてばたりと倒れ一人また一人と死んでいった 僕はこの地獄絵巻のような光景に身を置かれてどうすることもできなかった


自由詩 3度目の原爆2 Copyright 円谷一 2007-07-25 01:45:04
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