レム睡眠障害走100m未満
ひげ爺@雲夢任


ファーストフード店ではコップにストローが立てられて出てきた
マニュアルが与えてくれた親切 
私のささやかな楽しみはスタートラインに立つより早く消えた


仕方なく暗幕を下ろし外界を隔離して
その材料が何なのか いまだに明かされていない
麻薬色に染まった黒い炭酸を舌に巻き込んだ


心地良さの後の下品な上昇気流に刺激された喉は
再び暗幕を押しのけて広げたボヤケタ視界に飛び込んだ見出し
「事故か自殺か?転落死?!待たれる原因究明薬との因果関係」


部活帰りの学生がざわめきながら
有名人の幻を口から生えた剣でメッタ斬りしている姿を
冷えた目で内なる怪物が舌をチョロチョロと品定めを始めた


このところ眠れていないからだと怪物をなだめた化け物が呟いた
暑かったのだろう ポテトが冷笑をまぶして言う
「フロイトならファックと結びつけて欲求不満と大衆をコケにしたろう」


気の利いたジョークのつもりか?
苦々しさからポテトを食ってやった あいにくソラマメはない
とつぜん開かれた自動ドアが照明を打ち返してきた


近未来のアニメのように論理思考をいじくり回す連中が現れた
夢と現実 そして夢さらには現実
睡眠時に見るというマボロシ? それとも実現可能な目標?


こいつらは始末が悪い 質問に質問を返してよこすから本題が国外逃亡してしまうのだ
ビザを取ってまで追いかける気はない 成り行きを見守ることにした
夢の中の現実は何が起きても無害 現実で見る夢なんかよりよっぽど・・・


現実で見る夢は制限がかかる 夢の中の現実より健康にはいい
今回も答えが出ない討論番組よろしく 
黒い液体は呆れ顔で溜息をたくさんついて私の楽しみがまた減った


気が付けば国家機密を奪った犯人は殺され
たくさんの後始末を他人に任せて
立ち去る人物に字幕が重なって流れていく・・・つまり


息を乱して予約していた専門医の前に座る
「毎朝家族はアザだらけで私が動くたびに脅えた表情を浮かべます」
「よく見る夢は誰かに襲われて反撃して殴る夢です」


診断名はレム睡眠障害
「夢を見て寝ている夢を見ているぶんには誰もが安全で暮らせますよ」
専門医は笑っていた「夢で動けば現実でも体が動くなんて、不可思議ですが本当です」


今夜はスタートラインに立つ前に棄権しなければ・・・
黙っていたことがある ハードル選手の頃の私のこと
毎晩、誰かがフライングをしていた ベストタイムが出せそうだったのに残念な気持ちだった


だが、家は10階にある ピストルの音でハードルを飛び越えてしまったら
自己最高記録で最後の全国大会に出れるかもしれない
ファーストフード店ではフロイトがストローの代わりにスポイトをさして分析してくれるだろう




自由詩 レム睡眠障害走100m未満 Copyright ひげ爺@雲夢任 2007-07-24 23:02:03
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