「ななしの子」
あゆの ひより

あるところに13才の子のななしの子がおりました

2つ上の姉様がおりまして 
其の姉様というのが 大変美人で 剣道をやっているそうなのです
ななしの子も剣道をやっているのですが
姉様に勝てない事をいつもいつも 悔やんでいたそうです
 
そのうち 姉様は強く強くなられまして とても有名な方となりました
ななしの子も負けじと
姉様の2倍 3倍 と努力をされました

けれども その努力が報われる日はきませんでした
ななしの子はもう 努力する事をが嫌になってしまわれました
正確には いや というより 怖かったのでしょう
努力に押しつぶされてしまうのが…

 しだいに父様も強い姉様ばかりを 可愛がられました
 弱い子はいらないとでもおっしゃるように
 父様は ななしの子をみとえてはくれませんでした
 
 ななしの子には父様がおつけになった お美しい名がおありでしたが
 父様の口から その名が呼ばれたのを わたしはみたことがありません
 
ある日のこと
ななしの子は
名前が重い とおしゃいました
周りの人がわたしと姉様を比べるから
同じ名字だと 比べられてしまって
「わたしはわたし」と言えなくなってしまうから…と
ななしの子は おっしゃったのです

たいそう辛かったことでしょう

    「 名前なんていらない 」
それがわたしの聞いた最初で最後の ななしの子がまらした本音でした

そしてその日が
 わたしがななしの子を名前で呼んだ 最後の日でした



自由詩 「ななしの子」 Copyright あゆの ひより 2007-07-23 21:27:58
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