X回目の/への自慰
楠木理沙
ふたりでいる孤独とひとりの孤独
前者は後者を凌ぐと誰かが言っていた
ふたつはひとつになれない それを思い知ることになるからだと
隣の部屋から漏れていたふたつの声は
いつしかソプラノとバスの不協和音に変わった
僕は 不自然な角度で側頭部を壁にこすり付けて目を瞑ると
左手の親指と中指で乳首をつまんで 慌てて露にした下半身に右手を突っ込み
ただ 闇雲に扱き続けた
時折足先に力を込めて 漏れ出そうとする液体を押し戻しながら
僕は聞いたこともない甲高い声を バイト先の女の子に押し付けた
猫耳にメイドの服で身を包んだ彼女は 僕の上で狂ったように腰を振り続けた
何度も何度も僕の名前を叫びながら
いつも盗み見ていた乳房をわしづかみにして
知りもしない膣の感覚を描いて
歯を食いしばりながら速度を上げ続けた
どこかで聞いたような雨音が 部屋の中に響いていた
僕はとっくに気づいていた
自分で慰めるという行為は 慰めにはならないことを
ひとりでは慰めることすら叶わないことを
ふたりでいる孤独とひとりの孤独
前者は後者を凌ぐと誰かが言っていた
ふたつはひとつになれない それを思い知ることになるからだと
そんなことはどうでもいい
ひとりでは ふたりでいる孤独がどんなものかさえ分かりようもないのだから
ティッシュから溢れて親指の付け根にまで飛び散ったむなしさを
そのままボクサーパンツになすりつけた
一瞬の解放と 即座に展開される包囲網
分かりきっていた自己嫌悪に苛立ち 握りつぶすように右手に力を入れた
痛みが快感への下ごしらえに成り下がるのは時間の問題だった
僕はまだ壁から耳を離せずに じっと二回戦を待ち続けている