浴室
山中 烏流

爪先からそっと
静寂へと、沈めていく
触れた境界面から
私が溶けていくのは
見て、見ぬふり
 
緩やかに
波紋が広がるさまを
眺めながら、私は
磨り硝子の向こう
手を
伸ばして
 
 
窓枠を伝い
落ちていく雫は
白色を反射し、そして
光を生んでいる
 
私の目を穿つそれは
更に神経を伝って
増殖を繰り返しながら
また、光る
 
 
流れ出るままの水圧は
私と呼ばれている形を
ゆっくりと、変えていく
崩れていく
 
跳ね飛ぶ水滴が
壁へと付着していく
光を
また、増やして
そして
 
 
首から下を覆う
透明な保護色は、もう
波うつことをやめて
ただ、じっと
私を睨んでいる
 
水音が反響する
小さな部屋の中で
私は静かに
目を、瞑っていく
 
 
息を止めた、刹那
 
一つになれた
気が、した。


自由詩 浴室 Copyright 山中 烏流 2007-07-22 01:58:26
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