ふるさと
池中茉莉花
ススキノの病院で おんぎゃああっ と 産まれたわたし
そこから 「家」とかいうところに 初めて連れていかれたのは
今住んでいる この地区だった
それから何度か 引っ越したけど
なぜか この地区をうろついてる
結婚しても 新居は この地区
そとの景色はみたいけど 住むのはやっぱり
ここがいい
でも 今では変わり果てた 町なみが
かっちんと 凍って 見えたりもする
かつてこの町は 貧乏人のたまり場だった
わたしの初めてのうちも 「マンション」だった
「裕福じゃあないの」って?
ううん ここでは アパートも「マンション」と呼ぶ
ぼんろぼろの一間
一階建ての「○○荘」も立派なマンション
わたしのうちにも お風呂はなかった
でも わたしんちは とっても 裕福
ちっちゃいけれど テレビがある
父ちゃんの手で 空手チョップ3回
ほおうら もとどおり
貧乏って そんなものじゃない
三角屋根 一階建ての 灰色のマンション
一つしかない 玄関をあけて ガラーっと入っていく
右側の カギのない木の扉の向こう
そこが 大樹くんのうち
何畳だったのだろう せいぜい6畳一間だったはず
そこに 子どもが6人
父さんに 母さんに じいちゃんに ばあちゃん
台所? ないよ。 水道? ないよ。 洗濯機? ないよ。
電話? そんなのない人だらけ
連絡網は(呼)が ずらありだもの
「こんにちは」「元気がいいね。お入り」
「お水だよ」と じいちゃん 共同水道から持ってきてくれる
「ありがとう」
大樹くんと どったんばったん みっしみし おすもうごっこ
千代池山、うわてを狙っています 大器山、まわしを取られるか
あっ 大器山 ゆずりません ゆずりません 千代池、おっと大丈夫か
あああああ 突き落とし 大器山の勝ちぃっ
わたしはどっかり 一つ下の桃樹くんの細い体に 倒れ込む
「やったな!」と今度は 桃樹くんと取っ組み合い
でも 大人は あははと わらってた
子どもって そんなものだから
どこの家も そうだった
長屋だって いっぱいあった
隣のしゃべり声なんて 気にしないふり
だってここしか 住みかがない
頼めばツケで診てくれる 2階建ての病院もあったっけ
そして・・・今
少し気分のいいときは 散歩する
空気 そんなに変わらない
雲 そんなに変わらない
太陽 そんなに変わらない
でも・・・
おーーーーーーい 大樹くーーーーーん
おーーーーーーい 桃樹くーーーーーん
いるわけないよ いるわけない
「本当の」マンションばかりに なっちゃった
昔ながらの「マンション」も、レオパレスみたいな形をしてる
こんなところに 住めないよ 高すぎるもの
長屋のみんなは どこいった
ゆきちゃん、あっちゃん、まさくん、かずひで、ようこ、こうちゃん、
あやちゃん、ワカメ、魚屋のまさるぅ、きよ、りかちゃん、ひろくーーーん
「おっきくなったら けっこんしようね」
めんこい こいびと だったのに
ひろくんだって いないんだ
きっと、たぶん、ね
確かめたことは ないけれど
いっちょ 探しに出かけてみっか
みんなを探して あるきだす
「マンション」探して あるきだす
「長屋」を探して あるきだす
ない ない ない
ない ない ない
商店は ローソンに
市場は スーパー・アップルに
薬屋は auに
確かめながら あるいてる
ううんっと ここをまがると あれ、分からない だって、ここは・・・
歩けば 歩くほど 分からなくなってきた
あれれ あれれ
あわわ あわわ
太陽が 紅くなる 焦る気持ちが 強くなる
うちが どこだかわからない
闇が どんどん 責め立てる
早く 帰れ 早く 帰れと
どこに 帰れば いいのかも わからなくなった わたしに
仕方ない もうこうなったら
変わってるはずのない ススキノに帰るしかないのかな
わたしの産まれた場所にでも
とりあえず、駅を探して