グラデーション
悠詩
手作りの街並みは
連続的な曲率を忘れてしまっている
その中に欲しいものはなく
わたしは
資格参考書と
一握りの雨粒と
友人にお裾分けしてもらった溜め息の入った
鞄を提げて
求めたいものはないから
求めることもなく
中途半端に湿った安心を引きずって
闇夜に足音を刻む
刻む?
わたしが世界を疎外し
世界に疎外されているのに?
(して/されて)いるから
認めさせるひとなんていない
それに失望するほどわたしは
青くなんかなくて
その色に失望を感じないほど
わたしは
交差点にふたつの赤信号が佇み
投げやりにわたしを見る
仲たがいしている青信号は
誇らしげに平行線の彼方を眺めて
歩道橋は青信号と仲良し
苛立たしいほどにわたしを挑発している
悔しかったのでそれを背景に縛りつけ
ハイライトで輪郭をぼかしてやった
鞄から溜め息が漏れる
赤い目と対峙
足音は刻まない
刻まない?
刻めない?
ヘッドライトもテールライトも
なりを潜めているのに?
目の前を音速ステルス機が横切るかもしれないから
わたしは意識のないまま
わたしは世界から見られないまま
刹那にして透明になるかもしれないから
+ +
すこやかな意志が掟を決めるのなら
それは脆弱で流動的で
足を踏み出す無感動な勇気と
足を竦める真剣な迷いの間に
幅ゼロの直線なんて存在するだろうか
指先でなぞった物差しに
違和感を覚えたところで
それがおとなびたあのひとや
無邪気なあのコと同じであることは決してなく
重ね塗り
わたしの小さくも恭しい迷いは
曲率を忘れた夜にいない大勢のひとたちの
重ね塗り
の中に漂っている
平行線の中に
曲率を伴った曲線が
うねって
あるいは渦を巻いて
あるいはユークリッド平面を飛び出して
あるいは時間変化をして
でも絶対に連続である
連続でなければならない曲線が
無意識に作り出した曲線が
信頼すべきわたしの曲線が
わたしを待っている
+ +
眠たそうな赤信号
それは
わたしの灯した色
仲違いしていた信号が赤になる
わたしの灯した信号が青になる
瑞々しく流動的な曲率の白線を渡って
わたしはこの世界に帰ってきた
遠くに団欒の明かりが見える
どれひとつとして
楽しみも悲しみも
同じものはない
分かり合えない楽しみも悲しみも
きっと