悟
きりえしふみ
指先から不可視の(しかし、それは或る者らにとっては銀色に光る)糸
幾つもの繊細なる撓る糸、弛ませ垂らした
撓らせては 垂らした
道という道 道のない道へまで
私は眉間から七変化する糸 こめかみから 指先……足下から陸伝いに
風や雲を伝って 陽光を 月光を お仲間と引き入れた
ティースプーンで 其処に私を解いてみた
私の一部を其処に塗した 浸した
風にパラサイト……君の肩を突いて振り返らせた
青い未成熟な唇を奪って 永遠に帰らなかったりもした
吐く息から ?それ?を垂らした
想像の及ぶ限り 想像の及ばぬ範囲にまで
せせこましく 私の糸を垂らした 私の身体は
余りに小さく その足音は余りにも頼りないが故
此の糸なしには 此の一息 此の一鼓動
遠くへも また近くへも 運ぶことなど困難なのだ
指先から垂らす無数の糸 縺れぬように引っ張った
そして躍らせた 躍らせる
無数の糸からぶら下がる 幾つもの顔 幾つもの言葉
そして横顔 無言という文字
嵩張らぬよう 上手く 並べたりした
冷笑し迷走へ 歓迎し既知へと
読者を
誘い込んだり 誘わなかったりもした
指先から不可視の(或る者らの目には銀色に映る)糸
私は幾万もの糸 己の指からぶら下げた
穴という穴 皮膚という皮膚より 廻らせた
いつしか 此の糸、不意に縺れて
私の首を 息を 鼓動を……?了?と〆る
危ぶみながらも 受け止めた
血の気なき 此の手 此の狭き背に
インキとなった赤き血潮が まだ
無数の言葉を滲ませている 涙目でぶら下げている
細い無数の糸を通い鼓舞する 一芝居 無言劇……独白
無数の言葉が全て 語り終えたら
私も深々と一礼し 去るとしよう
大きな人型の痕跡を残し 言の葉と共に
銀糸の海のうねりへ 木々茂る揺籃(ようらん)へと 還ってゆこう 巡ってゆこう
春の夜明けの章へと 此の身、再び起こされる迄
人型の銀糸へ また此の身、熟す日迄
©haine kotobuki 2007/07/20