「その海から」(11〜20)
たもつ

11

ジャングルジムの上で
傘の脱皮を手伝う

またやってくる
次、のために

海水浴の帰り道
人の肌が一様に湿っている



12

ピアノを弾くと
鍵盤がしっとり柔らかくて
むかし手をつないだ人の
指に似ている
かいているのは本当に汗だろうか
ハンカチで顔を拭いても
パイプ椅子のような感じしかしない



13

空に向かって開かれた傷口から
無数のインコが飛び出していく
いつか名札も返して欲しい



14

紙の港から出航した
一隻の船を
雌カマキリが
美味しそうに食べた

石積みの橋の上
兄弟の内緒話は終わる



15

水の自転車を引きずり
隣の家の人が
習い事をしに行く
光合成の真似をしたまま
僕が昨日から帰ってこない



16

渋谷も池袋も失った
品川の交差点
余白を残したまま
講堂は突っ伏していた
そしてそれからのこととして
人々の足音が
少し遅れてやってくる



17

宿泊棟の窓から
吏員が風船を投げた

はたしてあれは
誰の幸せだったろう

僕は時計のように
口を開けて立ってる



18

ホテルの前に男は立っていた
女が来て
男はホテルをポケットにしまった
一面のお花畑が現れた
女はお花畑をバッグにしまった
一面、だけが後に残されて
二人は週末まで
ジャムを塗り続けた



19

壁から男が出てきた
男はその日
壁を直した

僕から男が出てきた
男はその日
柿のようなものを触った



20

青ヤギと赤ヤギが
白ヤギと黒ヤギの
噂をしていた

海は既に顎のところまで迫っていた

落ちていく日を見ながら
世界は美しいのかもしれない
と思った

明日も牧草の良い匂いが
嗅げる気がした



自由詩 「その海から」(11〜20) Copyright たもつ 2007-07-20 10:53:31
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