彼女の弾痕
楢山孝介

裸になった彼女の身体には
両脇腹と右肩と左の脛に弾痕があって
だから彼女はいつもぎこちない様子で
歩いたり
ものを書いたり
笑ったり
していたんだなと納得して
そこに触れなければいけないような気がして
とりあえず舐めてみた

「とりあえず」なんて思った自分に嫌気が差して
謝ろうかキスしようか悩みつつ彼女の顔を見ると
大丈夫だよもう傷は癒えてるからと
そんな顔をしていて
実際そんなことを言った
だけどもう何だか弾痕に触れる勇気は
なくなってしまって
しっちゃかめっちゃかな体勢で抱き合って
こういう馬鹿げた行為は一番彼女を傷つけてしまうな
なんてことを思って
口にも出しちゃって
そんなことはないよもう傷は癒えてるから大丈夫と
彼女はそんな顔をしていて
実際そんなことを言った

事が終わった後は彼女の戦争の話を聞いたり
僕は僕で僕の戦争の話をしたけれど
傷一つない僕の話は
傷だらけの彼女の話からはかけ離れていて
語り合うほどに
彼女との距離は離れてしまった
彼女を撃ったどこかの兵士や
こんな事態を作り出した元凶の戦争のことを
恨もうとしたけれどうまく恨めなくて
「とりあえず」で傷を舐めた自分のことを
いつまでも恨んで悔やんで罵っていた

次の日も彼女はぎこちない様子で
歩いたり
ものを書いたり
笑ったり
それからまだ暗い顔をしていた僕に向かって
怒ったり
していた


自由詩 彼女の弾痕 Copyright 楢山孝介 2007-07-20 10:16:12
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